常温で届いたその瓶の中に、エクソソームは残っていますか ― 化粧品の「保存」という、あまり語られない前提の話

この記事の位置づけ(過去記事との差分)

これまでこのブログでは、「塗るタイプと医療で使うタイプの違い」(角層のバリアと経皮吸収の話)、「原料になる細胞の違い」、「製造と品質管理という見えない差」、「どこで受けるか・どこで買うか」といった切り口を扱ってきました。

今回はそのどれとも別の、もう一段手前の問いです。すなわち——製品が作られてから、あなたの手元に届くまでのあいだに、中身は残っているのか。原料でも、製法でも、売り場でもなく、保存と流通の温度の話です。このブログでこの軸を正面から扱うのは、今回が初めてです。

きっかけ ― 米国で起きている、ある議論

2026年、米国で、植物由来のエクソソームを配合するとうたう美容液について、購入者による集団訴訟(クラスアクション)が提起されました。なお本記事では、特定の製品名・企業名は扱いません。 個別の製品を評価することが目的ではなく、この訴訟が投げかけた「問いの立て方」を共有したいからです(報道の出典は末尾に挙げます)。

原告側が問題にしているのは、広告に掲げられた「コラーゲン産生が◯%高まる」「炎症が◯%軽減する」「◯時間で肌の修復が◯%改善する」といった数値表示です。そして原告側は、これらの結果を得ることは「科学的に不可能だ」と主張しています。

その根拠として挙げられているのが、次の二点でした。

まず、粒の大きさ。原告側の主張によれば、傷のない健康な皮膚を通り抜けられるのはごく小さな粒に限られ、しかも塗った量のうちわずかな割合にとどまるとされる一方、植物由来のエクソソームの大きさはそれよりかなり大きいものまで幅広く分布している、というものです。

そしてもう一点が、保存温度。植物由来のエクソソームは生物としての活性を保つためにきわめて低い温度での保管が必要とされているのに、製品には保存条件の説明も、低温を保ったままの配送もなく、多くの購入者は常温で保管しているはずだ——という指摘です。

ここで大切な前提を置かせてください。これらはいずれも「原告側の申し立て」であり、裁判所の判断はまだ出ていません。また、提訴された側がどのように反論しているかも、公開された情報からは確認できていません。 製品の効果が否定されたわけでも、表示が違法だと確定したわけでもありません。

なお、これは米国で提起された一件の訴訟であり、植物由来エクソソームを配合するとうたう製品の全般について、何かが確定したという話ではありません。日本国内で販売されている製品それぞれが、どのような設計と品質管理のもとにあるかは、この訴訟とは別に、個別に見ていく必要があります。

エクソソームは「成分」ではなく、「壊れやすい粒」

この問いがなぜ効いてくるのかを理解するには、エクソソームがどういうものかを思い出しておく必要があります。

エクソソームは、細胞が外に出す、とても小さな袋です。直径はおおむね1万分の1ミリ(100ナノメートル)前後か、それ以下という、光学顕微鏡では見えない世界の話で、その袋の中にタンパク質や核酸などが詰まっています。細胞から細胞へ荷物を運ぶ「配達便」にたとえられることが多い存在です。

ここが、ビタミンCやヒアルロン酸のような分子ひとつで完結する成分とは決定的に違う点です。

たとえば食塩は、常温に置いても、揺らしても、食塩のままです。ところがエクソソームは、「膜でできた袋」という構造そのものが機能の一部です。袋が壊れれば中身は漏れ、表面についている目印も失われます。そうなったとき、それはもう「エクソソーム」と呼べる状態なのか——これが、この分野でずっと議論されてきた難しさです。

一般に、こうした膜でできた小さな袋は、温度、凍結と解凍の繰り返し、光、時間の経過によって、数が減ったり、集まって固まったり、中身が失われたりすることが、細胞外小胞の研究分野で繰り返し報告されています。研究目的で長期に保管する際に超低温の冷凍庫が広く用いられてきたのも、こうした性質を踏まえたものです。ただし、どの条件でどれだけ変化するかは、対象とする小胞の種類や測り方によって幅があり、ひとつの数字で言い切れるものではありません。

つまり、「配合されている」と「届いた時点でまだ機能する状態で入っている」は、同じ意味ではないということになります。

「効果がない」と決まったわけではありません

ここで急いで付け加えておきたいことがあります。

上に書いたのは、あくまで「壊れやすさという性質があり、だからこそ保存条件が問われる」という話であって、「化粧品に入っているエクソソームは無意味だ」という結論ではありません。

実際には、安定性を高めるための工夫——凍結乾燥して粉末で保管し使う直前に混ぜる形式、脂質組成の調整、保護剤の添加、遮光容器——といった技術開発が進められています。こうした加工を経た製品が、常温でどの程度の期間、どの程度の状態を保てるのかは、製品ごとに違い、そして多くの場合、購入者には公開されていません。

ですから正確な言い方はこうなります。「入っていないはずだ」でもなく、「入っているに違いない」でもなく、「その製品が、どういう状態で、どのくらい保つように作られているのかは、外からは分からないことが多い」。 私たちが立てるべきなのは、この位置です。

「◯%改善」という数字を見たときに

今回の訴訟のもうひとつの争点は、数値表示でした。

訴訟で争点になっているのは、たとえば「コラーゲン産生◯%アップ」「◯日で若返り、臨床的に証明済み」といった言い回しです(具体的な数値は、誤って広まることを避けるため本記事では伏せています)。こうした表現を見たとき、確認したいのは次のようなことです。

  • その数字は、人の肌で測ったものでしょうか。それとも、シャーレの中の細胞に直接かけて測ったものでしょうか。培養細胞に高濃度で振りかければ大きな変化が出ることはありますが、それが「顔に塗ったときに起きること」と同じとは限りません。
  • 何人で調べたのでしょうか。数人の試用と、数十人以上を比較した試験とでは、意味の重みがまったく違います。
  • 比べる相手はいたのでしょうか。使う前と後を比べただけなのか、それとも「その成分が入っていないもの」を使ったグループと比べたのか。季節や生活習慣でも肌の状態は動くため、比較の相手がいないと、変化の理由を切り分けられません。
  • 「臨床的に証明済み」の**「臨床」とは何を指している**のでしょうか。この言葉は、法律で厳密に定義された用語として使われているとは限りません。

これは以前の記事で扱った「研究の質をどう読むか」「何を測って効果と言っているのか」と同じ物差しを、今度は化粧品の広告に当てる、という話です。

買うかどうか、受けるかどうかを考えるときに

専門知識がなくても確認できることを、いくつか挙げておきます。

化粧品として買う場合

  • 保存方法についての記載があるか(冷蔵を指示しているか、常温でよいと書かれているか、そもそも何も書かれていないか)
  • 開封後の使用期限の目安が書かれているか
  • 凍結乾燥・粉末と液体を使う直前に混ぜる形式など、安定性への工夫が説明されているか
  • 数値をうたっている場合、その根拠がどこにあるか(人の肌で調べたものか、何人か、比べる相手はいたか)

いずれも「書かれていない=粗悪」という意味ではありませんし、書かれていないこと自体が決まりに反しているわけでもありません。ただ、書かれていないことについては、私たちの側も判断を保留しておくのが公平な態度だと思います。

医療機関で相談する場合

医療機関で扱われるものと化粧品とでは、流通や保管の条件が異なる場合があります。ただし、条件が異なることは、品質が保たれていることの証明にはなりません。そして、日本を含め、エクソソームや幹細胞培養上清液を用いた治療で、有効性と安全性が確認されて薬として承認されたものは、現時点で存在しません。この前提は変わりません。そのうえで、保管や品質管理をどうしているか、期待できることと分かっていないことをどう説明してくれるか——遠慮なく尋ねてよい事柄です。答えにくい質問に対して、誠実に「そこはまだ分かっていません」と言ってもらえるかどうかは、ひとつの手がかりになります。

あわせて、起こりうる副作用や体調の変化、万一のときにどう対応してもらえるのかも、必ず確認しておいてください。承認された薬とは異なり、こうした施術については副作用の情報が体系的に集められている段階にありません。

まとめ

  • エクソソームは分子ではなく「膜でできた小さな袋」で、構造そのものが機能の一部であるため、温度や時間の影響を受けやすい性質があります。
  • 米国では、植物由来エクソソーム配合をうたう美容液について、「皮膚を通り抜けられる粒の大きさと、保たれていない保存温度を考え合わせれば、うたわれた効果は科学的に不可能だ」と主張する集団訴訟が起きています。ただしこれは原告側の主張であり、判断は出ておらず、提訴された側の見解も確認できていません。
  • 安定性を高める技術は実際に開発されており、「入っていない」と決めつけるのも早計です。分かっているのは「外からは分からないことが多い」ということです。
  • 「配合されている」と「機能する状態で残っている」は別の問いです。そして、この問いは、製品の宣伝文句の中ではあまり触れられません。

新しい技術に期待すること自体は、悪いことではありません。ただ、期待の置きどころを一段ずつ確かめていくと、見える景色が変わります。今日はその一段として、「保存」という、少し地味な前提を取り上げました。

まずはカウンセリング・ご相談のご予約を


本記事は一般的な健康情報であり、特定の製品・医療機関・治療をすすめたり、あるいは否定したりするものではなく、個別の診断・治療方針を示すものでもありません。本文で触れた訴訟について、当ブログはいずれの当事者の主張の当否についても判断を示すものではありません。症状や治療についてのご判断は、必ず主治医・医療機関にご相談ください。

参考


エクソソーム治療におけるリスクと留意事項

  • 未承認医薬品等について:本治療で用いるエクソソームは、国内の薬機法において承認された医薬品ではありません。医学的効果については現在世界中で研究が進められている段階であり、確立された標準治療とは異なる点をご理解ください。
  • 個人差について:体質や病状により反応には個人差があり、期待される変化が得られない場合があります。
  • 副作用のリスク:投与後に発熱、倦怠感、発疹などのアレルギー反応が生じる場合があります。
  • 品質の非均一性:エクソソームは製造方法や濃度によって品質に差が生じやすく、常に一定の均一性が保証されているわけではありません。
  • 長期安全性の未確立:数年単位での長期的な安全性や身体への影響については、十分な蓄積データがまだ存在しません。
  • 全額自己負担:本治療は公的医療保険の適用外となる自由診療です。
  • 適応の判断:事前の診察において、基礎疾患や服薬内容により治療の適応外と判断させていただく場合がございます。
  • 入手経路等:本治療に用いるエクソソームは、国内の細胞加工施設(特定細胞加工物製造施設番号:FA5250001)にて製造されたものです。
  • 国内の承認医薬品等の有無:本治療と同一の成分・性能を有する、国内で薬機法上の承認を得た医薬品はありません。
  • エクソソームを⽤いた治療は、諸外国においても医薬品として承認された実績はありません(2026年4⽉現在)。現在、各国で臨床研究・治験が進⾏中の段階です。主なリスクとして、アレルギー反応、注射部位の感染、発熱等が海外⽂献において報告されています。
  • 本治療に使用するエクソソームは国内の薬機法上の承認を得ていないため、医薬品副作用被害救済制度の対象外となる場合があります。

1ml = 22,000円(税込)

投与方法:点滴(5〜10ml)
※お支払いはクレジットカードかQR決済のみ対応(現金不可)

○初診料:3,300円 
○点滴:110,000円(5ml) 〜 220,000円(10ml)

本治療は自由診療(保険適用外)となります。
※上記価格には、カウンセリング料、手技料等が含まれます。

本治療に使用するエクソソームは国内の薬機法上の承認を得ていないため、医薬品副作用被害救済制度の対象外となる場合があります。医師が事前に詳しくご説明した上で、治療を実施いたします。

プライスについて、もっと詳しく

監修:平林大輔

東京大学医学部健康科学看護学科卒|群馬大学医学部医学科卒|医師、看護師、保健師|日本専門医機構認定 産婦人科専門医
看護師として臨床勤務後、医学部に再入学し医師となる。市中病院にて産婦人科医として研鑽を積む。エクソソームに出会ったあとは、その可能性に惹かれ治療に取り組む。延べの診察人数は3500名以上、直近1年間では1800名以上にのぼる(2026年2月現在※)。特に脳性麻痺や急性脳症後遺症、自閉症といった子どもたちの診療に力を入れている。
【資格・所属学会】日本産婦人科学会|日本細胞外小胞学会
※数値は2026年2月現在の当院電子カルテ集計による