検査をして、初めて分かったこと
2026年8月25日、オーストラリアの規制当局である TGA(Therapeutic Goods Administration/医薬品行政局)が、ひとつの安全性情報を公表しました。
美白をうたって販売されていた3つの製品を分析したところ、製品の成分表示には書かれていない「ハイドロキノン」という成分が、2.9%、3.4%、3.6% という濃度で検出されたというものです。
オーストラリアでは、ハイドロキノンを2%を超えて含む製品は「化粧品」ではなく「処方箋が必要な医薬品」に分類されます。つまりこの3製品は、表示のうえでは美白化粧品として売られながら、中身は医師の処方が要る区分に入っていたことになります。TGA はこれらを、同国の法律上「偽造品(counterfeit)」に当たるとし、偽造品は個人輸入の制度を使って輸入することはできず、それと知りながら輸入・供給・譲渡する行為は違法であるとしています。
TGA は「ハイドロキノンは、とくに医学的な助言なしに使った場合、重い副作用を起こすことがある」としたうえで、消費者に対して、使用をやめること、手元に残っているものは薬局に持ち込んで処分すること、不安があれば医療者に相談することを求めました。あわせて、同国の国境当局と連携して今後の該当品の流入を止め、水際で押収・廃棄する方針も示されています。
なお TGA は、2021年にも同じブランド系統の製品について、2%を超えるハイドロキノンを検出したとして同様の安全性情報を出しており、今回が初めてではないことにも触れています。
この記事は、この3製品を名指しして批判するために書くものではありません。本文では製品名も企業名も挙げず、確認のための一次情報(規制当局の公表ページ)だけを末尾に示します。ここで考えたいのは、もっと手前にある一般的な問題です。
「書いてある」と「書いていない」は、意味の重さが違う
私はこれまで、化粧品や医療の説明を読むときの手がかりについて、何度か書いてきました。注釈(※)が言葉の意味を決めていること。同じ一般名で呼ばれていても中身がひとつとは限らないこと。保存や流通の条件で、届いた時点の状態が変わりうること。
それらはすべて、**「書いてあることを、どう読むか」**という話でした。
今回の出来事は、向きが逆です。書いていないものが、入っていた。
ここに、成分表示という仕組みの限界がはっきり出ています。成分表示とは、その製品に入っているものを申告する欄です。それは、そこに書かれていないものが入っていないことの証明ではありません。
これは制度をけなしているのではなく、制度の性質の話です。表示は、作る側が正しく申告することを前提に成り立っています。前提が守られていれば、表示はきわめて有用です。守られていなかった場合、消費者の側には、それを見抜く手段がほとんどありません。
今回、未表示の成分が見つかったのは、消費者が気づいたからではなく、規制当局が製品を買い上げて分析したからです。パッケージをどれだけ丁寧に読んでも、たどり着けなかった情報でした。
エクソソームや幹細胞培養上清液の場合は、どうなるか
ここからが、私が普段扱っている領域の話です。
エクソソーム(細胞外小胞)や幹細胞培養上清液を配合したとうたう化粧品・雑貨は、国内外で数多く流通しています。これらについては、以前から次のような論点が指摘されています。
- 「入っていること」自体を、外から確かめにくい。 エクソソームは目に見えず、家庭で測れるものでもありません。国際的にも、粒子の数え方や品質の評価方法の標準化が課題として議論されている段階です。
- 由来も製法も、製品ごとに違う。 どの細胞から、どういう工程で得られたものかによって、含まれるものは変わりうると考えられています。
- 保存や輸送の条件に左右されうる。 膜でできた構造物であるため、温度や時間の影響を受ける可能性が指摘されています。
ここに、今回の TGA の一件が示した層が加わります。「表示に書かれていないものが入っていないこと」も、外からは確かめられない。
つまり、この種の製品について私たちが手にしている情報は、作り手の申告と、それを監督する制度への信頼の上に載っています。信頼できる体制のもとで作られていれば問題は起きにくく、そうでない場合には、表示という手段では気づけないことがある。この構造を知っておくことに意味があります。
なお、ハイドロキノンという成分そのものは、国によって扱いの線引きが異なります。今回の 2% という基準はオーストラリアのものであり、日本には日本の制度があります。**「この成分は危ない」という話ではなく、「同じ成分でも、どの国のどの区分で流通しているかによって、要求される管理の水準が変わる」**という話として読んでいただければと思います。日本の分類が、今回の 2% という線引きと同じというわけではありません。国内で手に取った製品の位置づけについては、購入先や、皮膚科などの医療機関にご確認ください。
買う前・使う前に、確かめられること
表示だけでは分からないことがある、という前提に立つと、確かめる先は「表示の外側」に移ります。私が患者さんとお話しするときにお伝えしているのは、次のようなことです。
1. その製品は、どの国のどの制度のもとにあるか。 日本国内で正規に流通している製品なのか、海外から個人で取り寄せたものなのか。輸入代行や越境の通販で入手したものは、日本の制度の点検を通っていないことがあります。今回のように、当局が分析して初めて分かる問題は、その点検の外側で起こりやすくなります。実際、今回 TGA が対象としたのも「輸入された未承認の製品」であり、同局は「確認できない海外のサイトから医薬品を買うことには、極めて慎重であってほしい」と述べています。
2. 日本語の表示が、法令の求める形で揃っているか。 販売名、成分、製造販売業者、使用上の注意といった記載が、日本語で完備しているか。ここが欠けている場合、正規の流通経路に乗っていない可能性を考える材料になります。
3. 「効果」の説明ではなく、「作った人」の情報が書かれているか。 どこの誰が、どういう管理のもとで作ったのか。この情報が具体的であるほど、責任の所在がはっきりします。効果の表現がどれほど魅力的でも、作り手の情報が曖昧なものは、確かめようがありません。
4. 皮膚に異変が出たら、まず使用を中止する。 かゆみ、赤み、色の変化、皮膚が硬くなるといった変化が出た場合は、使い続けずに中止し、皮膚科などの医療機関にご相談ください。何をどれくらいの期間使っていたかを、実物や写真とともに持参していただけると、診療の助けになります。国内では、製品による消費者トラブルの相談窓口として、消費生活センター(消費者ホットライン 188・局番なし)も利用できます。
表示は約束であって、証明ではない
今回の件から持ち帰りたいのは、ひとつの文だけです。
成分表示は、そこに何が入っているかの申告であって、そこに何が入っていないことの証明ではありません。
これは、表示を疑ってかかりましょう、という意味ではありません。ほとんどの製品では、表示は信頼に足るものです。ただ、表示という手段には、そこまでしか届かないという限界がある。だから私たちは、表示の内容だけでなく、その表示がどういう制度のもとで書かれ、誰に点検されているのかまで含めて見る必要がある——そういう話です。
エクソソームや幹細胞培養上清液のように、中身を外から確かめにくい領域では、この一段が特に重くなります。研究としては世界中で活発に進められている分野です。だからこそ、研究への期待の大きさと、いま確かめられることの範囲は、別々に持っておきたいと考えています。
まずはカウンセリング・ご相談のご予約を
本記事は一般的な健康情報であり、特定の治療をすすめたり、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や治療に関するご判断は、主治医・医療機関にご相談ください。
参考にした一次情報
- Therapeutic Goods Administration (Australia)「Safety advisory」(2026年8月25日公表/2026年8月31日閲覧) https://www.tga.gov.au/safety/safety-monitoring-and-information/safety-alerts/carotone-skin-brightening-products-found-contain-undeclared-prescription-only-medicine ※ リンク先は規制当局の公表ページであり、本記事による特定製品の評価ではありません。







